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西暦2025年 その弐 (ショートショート小説)

−議会にて−
野党議員が質問の最中です。
野党議員R:「えー、軍司令官にお尋ねします。先日、2名の殉職者を出しながらもわが領土「南の島」を再びC国から取り戻しました。取り戻したことは誠に喜ばしい限りですが、亡くなった兵士、及び遺族の方々には謹んで哀悼の意を表します。さて、実はこの時の兵士の配置に関しまして一つ大きな疑惑を耳にしました。今回は第7,8部隊が派遣されましたが直前に不自然な兵士の入れ替えがあったということです。「不自然な入れ替え」に関しては今回だけでなく、以前からたびたび兵士の間でうわさになっており、この件に関しまして軍司令官にお尋ねします。戦闘を逃れるため、意図的な配置転換が行われているーといった事実はありますでしょうか?」
議長: 「軍司令官、答弁願います。」
軍司令官が答弁席へあがる。
軍司令官:「本件は軍事、防衛に関する事項のため、本来なら答弁する義務はありませんが、あえてお答えします。兵士の配置につきましては、「適材適所」の方針で行っております。各戦闘地域の実情に合わせ適切な兵士に入れ替えるーこれは以前からよく行われていることです。今回の戦闘地域は「南の島」ですので「泳ぎの達者な者、視力の良い者」へ入れ替えた経緯がございます。たとえば戦闘機や艦船が攻撃され、やむなく機外、艦外へ脱出する場合があります。その際脱出先は「海」の場合が多く、泳ぎの苦手な者はたちまち大きな危険にさらされ、岸へたどり着く事も難しくなります。また、味方の救助も早めに行わねばならなくなり、その分作戦上の不都合が生じます。」
野党議員R:「味方の救助も早めに行わねばならないーとはどうゆう意味でしょうか?ライフジャケットは着用していないのですか?」
軍司令官:「戦闘に入った段階でライフジャケットは着用しますが、考えてみてください、
そこは外洋です。波はとても荒く深い海です。泳ぎの達者な者でさえとても怖い海です。そこへ水の苦手な者がほおり込まれたらどうなるか。実は過去にも浮かんでいながら意識不明の重体となった兵士がおりました。大波をかぶった時に息ができなくなり、パニック状態となりあわてて海水を何回か吸ってしまったようです。」
野党議員R:「なるほどわかりました。では「視力の悪い者」は?」
軍司令官:「これも同じ事です。機外、艦外へ脱出した場合、メガネやコンタクトが外れ、紛失してしまう場合が多いのです。その際、視力0.1以下の者はほとんど周りが見えなくなる。つまり、目指す島影も見えず、ただ浮いているだけしかなくなる。すなわち早めの救助が必要となります。」
野党議員Y:「つまり、早目の救助のための兵士が必要となる分、攻撃作戦の兵力が削がれ、攻撃力が落ちるということですね。」
軍司令官:「その通りです。もし海へ脱出した兵士が「泳ぎの達者な者、視力の良い者」ばかりならば、そこが島に近い地点ならば極端に言えば、司令部は「何もしなくていい」わけです。全員が島にたどり着ける可能性が高い。」
野党議員R:「よくわかりました。質問を終わります。」
軍司令官:「ご理解いただけてありがとうございます。また、これは蛇足ですが、今後のこともありますので。ほかにも心臓の不整脈の兆候のある者、精神的に不安定な者なども入れ替える場合もあります。以上終わります。」
野党議員Y:「待ってください。この件は兵士の生死に関わることです。もう少し、詳しくお聞きしたいのですが。」
軍司令官:「先程申し上げましたとおりこれ以上のことは作戦に関わってきますので、秘密保護法の軍事秘密に該当します。申し訳ありません、以上終わります。」

−首相執務室にて −
首相: 「野党の質問には肝を冷やしたぞ、まさか漏れるとはな。」
補佐官:「こんなこともあろうかと、念のため実は前の議会の後に軍司令官に想定問答をお渡ししてあったのです。こんな質問があれば、こうお答え下さいという問答集です。」
首相: 「ハハハ、さすがだな。だが、その問答集が誰かの手に渡るとういことはないか。今回の件のように全く想定外の事も起きるしな。」
補佐官:「司令官には、「このメモは人事部長からですよね。」と言ってお渡ししました。メモの題は「人事の実情について」と書きました。」
首相: 「そうか、そこまでしてくれてあったか。」
補佐官:「今回は私の弟の件でお骨折りいただいているので、当然の事をさせていただいたまでです。」。
首相: 「ところで、君の弟くんのことだが、聞けば軍の中でも体が丈夫で武勇に秀でた者だそうじゃないか。どんな不適格事項にするつもりだったんだい?。」
補佐官:「そうなんです、実は不適格な部分を探すのが大変でして。どうみても戦闘には一番向いている兵士なんです。」
補佐官:「いろいろ考えた結果、指導教官候補とするのが一番良いのかと思いまして。」
首相: 「つまり、実戦での戦闘、対応がうまいので将来は指導教官にするつもりだと、いうことだな?」
補佐官:「そうゆうことです。できましたらその線で対応をよろしくお願いします。」
首相: 「考えればアイデアは出るもんだな。わかった、本当に戦場での対応がうまいわけだから指導教官としてはうってつけだろう。さっそくその線で進めよう。」
補佐官:「いろいろとお骨折りをいただきありがとうございます。私としてはこれからも様々な案件にご貢献できると思いますのでよろしくお願いします。」
首相: 「君は貴重な存在だ。いろいろと世話をするかいがあるというものだ。任せておきたまえ。」

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